◆受講者の新たな意気込みが嬉しい

「気をつけ！礼。ただいまから１Ｇの各自の研修の感想と実践事項の発表と､今後の活躍に向けてのグループ討議のまとめを発表いたします。」「まず最初に､今回のグループリーダーを担当しましたＫから発表します。私は・・・。」終わると、受講者全員と研修担当部門､そして小生らが大きな拍手で労いとエールを贈る。「次ぎにＳさんお願いいたします」「営業部のＳです｡私は・・・・・。」と順次各自の発表とエールの拍手を送る。「では次に、討議のまとめの発表をＡさんお願いたします。」「発表します営業所のＡです。１Ｇの努力事項として３点あります。１・・・２．３．です」と力強く読み上げる。会場の全員から頑張ってくださいの心を拍手で贈る。結びは「気をつけ、礼。以上で１Ｇの発表を終わります。」会場一同から更なる拍手でＧの発表は終了する。

　発表後直ちに､担当部門の３者から総括として、発表内容、研修中の受講態度、言動の変化、そして､採用時から入社後の見聞きする情報を生かしたコメントが贈られる。
　例えば、研修中の先輩からの配慮に感謝、同期の絆は生涯の財産、「理解した事と､できる事は違う」学びを実践し周囲から変わったなとの声を引き出そう・・・・・など、担当部門だからこその評価とエールの直言は受講者ヘの心に響く。それは､発表したことの実践に向けてのスターを切る心意気になるからである。
「造り上げた研修」の楽しみは、ここで一段落となる。

◆上司との面談型コミュニケーションが生きる

　次なるステップは、受講者が創る学びの成果である。それは、各自の発表、Ｇの議論してまとめ上げた内容に加えて、総括での助言ポイント生かした「各自が創る成長」の活躍ストリーの策定ヘの支援である。その柱立ては、来年４月時の自己像のビジョン設定・その実現の為の実践目標､そして不足能力を克服する自己啓発目標の設定である。この取り組みは､自ら創り､造りあげていく成長の楽しみに他ならない。

　ここに一考を講ずるのが上司とのリンクである。部下の育成は上司の最たる役割である。従って、本人が学びから掴んだ変わる覚悟で創り上げた目標の実践、その支援は上司にとっては育成実施の効果的機会である。従って、記した３本の柱による作成シートを上役に紹介する。当然、記入事項に対するショートミーテイングが実施される。配属後の上司がとらえた評価もあるだろうし、変わって欲しい要望も持ち合わせている。従って、目標の実践に向けての助言を施し、共有事項として記して印を押す。ここに対談型コミュニケーションが組み込まれる。以後はＯＪＴの実践へと運び、目標達成に向けて部下を一本の木の成長に例え、適宜な剪定による指導と水の供給肥料の支援の施しもあろう。

　この研修事例は、先日出講した建設工具トップメーカーＳ社の新人７ヶ月研修の一端である。コロナ禍での人と人の接触を極端に避けてのコミュニケーションの有り様も適切に緩和され 対面による研修活動も延期から、ようやく本格稼働の兆しが見えてきた。

そこで、長年の対面型研修活動による経験知（経験による知恵）から、対面型コミュニケｰションを生かした「創る」「造る」「造り上げる」その研修活動の楽しみかたに着目し、その実践方法を提起してみよう。

◆対面型コミュニケｰションの第一段階は担当者との融合

　先ず、第一の心得は、企業内研修は社員が外部セミナーを受講するのとは違い、セミナービジネスを業とする側が研修商品を持ち込み実施す物ではない。企業での人材育成に取り組む中で、企業内での指導の術が不足時に､そこを補う役割が外部講師である。と心得る事である。それは､小生がかつて、企業での人材育成部門長としての体験からである。従って、依頼研修実施に当たっては、担当者及び主催者との「創り上げる研修」に取り組むことにより信頼を得、長年のお役だてをしてきた。さて、具体的推進の第一歩は、
「創る」段階である。創るとは、想いをつくることして研修企画の構築である。ここでは、依頼側との可能な限りの情報を共有化して議論をなし、折り合いをつける事にある。

折り合いとは、研修の最大の実効に向けて、互いに異見を交わし、最適な方法を生み出す為の融合化である。

　折しも、Ｓ社の現在の社員の取り組みスローガンには、「議論を通じて全体最適の実現を」と掲げている。全体最適の思想は､自分枠、自署枠での改革案でなく､他部署にとっても、全社活動にとっても適正であり、それは、経営理念に基づく中期、今期目標の実現に即しているかの業務遂行判断である。

　従って､担当講師は、その一役担うゆえ、学ばねばならない。だからこそ担当者との打ち合わせ機会は重要である。しかも、必要に応じて何度か重ねることも良い。

　ここでの対面型コミュニケｰションでは、訊く（質問）事による学びのきっかけ作り、そして素直に聴く、そして、自身の考えを信念持って伝える事である。それは異見であっても先ず開示することが肝心であり、さらに、先方の考えを受けて練り直しする。練り直しとは、自分の考えを捨てて先方に合わせることではない。新たな学びにより、より良い考えを生み出す過程である。

◆共に研修内容を創り上げる

　その第一歩の議論は、研修内容の思惑づくりである。基本は、研修内容は変えない内容と変える内容とのバランスである。変えない内容とは、企業（行政・団体）の理念、基本的活躍の期待事項は変わることなく継続的指導が不可欠である。そして、変える内容とは、新たな価値創造に向けて掲げられる戦略（中長期計画、年度計画・・）の達成に向けての活躍条件は新たな必要能力を要するので、従来の内容に加わる故、変わる内容である。

従って、ここでの、対面コミュニケーションでの着目ポイントは、企業の現況、戦略内容、研修実施の思惑、受講者の特性、そして、社内実施研修内容とリンクしての要望事項等々の情報を提供頂く事である。勿論、当方で得ている情報との整合性等を確認する事も怠らない。当方で得ている情報とは、企業、業界等の一般情報、ＨＰでの企業の動向そして､送付いただいている社内報などがある。

　加えて、長年、継続している企業様では､重ねてきた研修履歴を振り返り､毎回の印象に残ったトピックス（受講者、研修自体の出来事、クラス全体のムードなど）を持ちうる事も生かせる。なぜなら､担当部門の方々は変わることも多い。だからこそ、その時だけの点対応の支援ではなく、線対応による最適な研修条件を生み出す情報の共有化を念じてのことである。

◆この際の最適なコミュニケーション法は面談である

　この打ち合わせには、訪問しての面談を第一としている。小生は地域圏外、遠方に出かける事も厭わない。昨今のデジタル化に伴う訪問なくての諸方法の活用あるが、それはそれなりに双方が選択しベストミックスで実施をすれば良い。しかしながら、実際に対面ですることがより効果的である事は双方が望んでいることである。だからこそ、小生は、「面談によるコミュニケーション」のこだわりが堅い。

　この実践は、お打ち合わせ時メンバーに、担当者の上司、部門長クラスが同席しての配慮も頂ける事である。事実、数十年継続している工具トップメーカーＮ社様はじめ、多くの企業様は、紛れもなくこの実践を重ねてきている信頼関係が嬉しい。

　一方、初めて出講依頼企業の訪問時の利点は直に感じる情報がある。それは､企業の外部環境、つまり､地域性、都市、所在地環境､建物の特性などから社員の生活感のイメージが出来る。また、周辺を散策し、触れ合いを心して住民と声がけしての対話、お店に立ち寄っての情報、タクシー運転手からお聴きする訪問先の現地の評判など実に学ぶ事が多い｡それには､社員像の想像にも役立つ。さらに訪問企業の各所で観る現実事例、それは､社員と直接交わす言動であり、仕事ぶり､職場の３Ｓ（整理・整頓･清掃）状態、掲げられている言葉、広報情報などからの学びも多い。この学びは、あらかじめ掴んでいる情報での育成ニーズとの整合性を掴むうえで大いに役立つのである。

　そして、ご担当部門のかた方の対面による人と人の全身コミュニュケｰションは､第一印象の外観でのキャッチから、その後の意思疎通を交わす経過で､お考えを理解しつつ、その人柄を味わいつつ、以後の折衝の心決めをさせて頂く。そこには、本気で育成に取り組む気概、小生に託す本心の程度（会うだけ、依頼意図の程度、当方ヘの依頼決断にむけた態度変容）を学ばせて頂き、小生からのお役だてとして、情報、及び訴求内容を提供する。

その反応に注目する。それは、興味を持っての食いつき加減が、話される心意気と実施に向けた本意を語っているからである。勿論、自身が考えてなかった事、例え、考えを持っていてもそれほど重要視していなかった事から、新たな育成必要点を浮き彫りにし、新たな研修への欲求を生むこともある。いずれにしても、真に､依頼する､依頼を受けるうえでのおおよその折り合いに結びつかねばならない。それは､双方にＯＫ，ＮＯの選択権を持ってのスタートだからである。だからこそ、双方の意向の合致は、面談によるコミュニケーションだからこそ深まる利点である。

　ここでの折り合い事項を前提として、研修企画の提案を提出し､検討頂き､再度の打ち合わせへとすすむ。ここでは、担当者の意見要望を得て、議論を重ね、建設的修正を加えて一応の研修実施に向けての研修の想いが創り上げられる。

　ここでも、対面型コミュニケーションであるから、前回よりも親密感も深まり、忌憚のない本意での応酬を経て、実施における先方様の負荷条件への折り合いを創り出すのである。そこには、講師任せでなく、自身も一役関わる責任と楽しみを持てるのである。

◆研修の場での対面コミュニケーションは

　いよいよ､研修の実施である。つまり想いの現実の「造る」（形にする､仕上げる）施しである。この段階での対面コミュニケーションは､受講者同士、受講者と講師、パートナーとしての担当者との連携である。そこには、心を通わす楽しさがあり、施しによる成長が観られる楽しさがある。

　但し、ここでのコミュニケーションで肝心なことは是々非々の物差しを受講者と共有化することである。この物差しづくりには、先ずトップ又は、幹部の対面型講話を入れることがよい。その際、依頼の柱立ては、受講者への活躍期待、そこには企業の現況を語り、どうゆう活躍ぶりを願うかを提起され､その実践に向けて当研修を実施するとの内容が望ましい。

　Ｓ社のＨ社長は「レンガ造りの三人の職人」の寓話を引用して、働く目的のとらえ方と企業理念をリンクされて見事に話された。寓話の内容は周知のことであろう｡おおよそ次の内容である。

「旅人がある町を歩いていると､汗を流しながら重たいレンガを運んでは積み、運んでは積みを繰り返している三人のレンガ職人に出会いました。そこで旅人は、「何をしているんですか」と尋ねました。すると、その三人のレンガ職人は次のように答えました。

○一人目は、「そんなこと見れば解るだろう。親方の命令で｛レンガ｝を積んでいるんだよ｡暑くて大変だからもういい加減にこりごりだよ」と答えました。

○二人目は、「レンガを積んで｛壁｝を作っているんだ｡この仕事は大変だけど、お金が良いからやっているのさ」と答えました。

○三人目は、「レンガを積んで､後世に残る｛大聖堂｝を造っているんだ｡こんな仕事に就けてとても光栄だよ。｝と答えました。

　Ｓ社は、社会にお役に立つ企業、人のお役に立つ事を我が喜びとする精神を創業から掲げて発展してきた企業である。従ってこの寓話を引用して､三人目の職人の働き方を説いた。勿論、研修の受講への心得を含めてのことでもある。

　そこで、この意図を研修の軸として、研修内容のリンク付けをし、受講者の言動、グループ活動、発表等に、是々非々の診断を心して､褒めと､アドバイスの施しに尽力した。

　対面型研修だからこその、直に交わせるコミュニケーションであり、動きの診断を直に感受し､適宜､適切に指導できるのであり､受講者にとっても納得がいく。

　従って、研修方法にも最適な方法を講じる努力も重なる。それは､あらかじめ用意した方法の駆使ではなく、第二、第三の方法の施しを惜しまない。なぜならば、「研修は生き物」であり、対面型研修の醍醐味はここにあると心しての指導だからである。だからこそ、受講者の互いの絡みによる刺激交換が効果的に行われる。それには、ペアー、グループによる体験学習で直に人対人との言動を通じて、自身のできる能力の確認、自己の未熟さなどの気づきが創出できる。この気づきが、研修の善し悪しを決める。それは、気づきから､反省を生み､本気で変わる覚悟を持つからである。

勿論　気づきの創出には、工夫した講義や、全体に、あるいは個人別に是々非々での指導、示唆を適宜施すのは必然であり、さらには､担当部門のときおりの出番を演出して、鋭く指導を頂く事を組み込んでいく。

　さて、その出来映えの確認はどうする。この「造り」の実感は、冒頭に紹介した､各自の受講所感と心に抱いた実践に組み込まれているのである。その一例として例えば、

＊７ヶ月ぶりに、同期で集まり、各自の活躍ぶりを知り、皆、しっかりと頑張っているんだと感じ、自分もさらに頑張ります。

＊より良い仕事の方法を考えて提案し、部署の新たなやり方となったとの仲間の事例を聴いて､自分もそれだけの存在を得ようと思った。

＊演習体験から、チームワークの大切さの実感、正しく伝える工夫、できた後の検証の重要性など、演習中の反省から浮き彫りにできた。今後、生かしていく。

＊聴く･メモ、挨拶等馴れてきた事による、最高実践が薄れている｡初心に返って当たり前のことを心を込めて実践する。

などなどがある。そして、グループ発表での今後の「当社の人財になる､来春には後輩の憧れの先輩となる努力条件」に組み込まれているのである。

◆後を楽しむ対面コミュニケーション

　それは、ＰＤＣＡのサイクルをスパイラルに回すうえでのＣの段階。当然、対面コミユニケーションは担当部門との振り返りにほかならない。そこには､「創り上げた研修の想い」と「造る研修」での実施現場の反芻、そして受講者個別の診断など、それぞれの立ち場での見解を出し合う。そして､今後の気にかけた指導支援を確認して、各自が将来の築城に向けての育成支援活動へと生かす事となる。

　以後の成長の情報として、「心が変われば行動が変わる､行動が変われば習慣が変わる､習慣が変われば周囲からの評価が高まる」、それは､「あのときの研修のおかげです」と、受講者からの言葉が寄せられる楽しみを秘めることである。

　さて、企業は人なり、人財育成が重要、学ぶ事は新たな活躍を実践する事､学ぶ事は変わることである。ならばどうする。コロナ過で新たな方法を駆使した研修実績を残してきたことは事実だが、大方が対面なしの方法である。確認して診よう。研修後の変わりようの実態はいかがであろうか。

　アフターコロナと表される現在、対面型研修の実施に向けて推進を図る事が不可欠である。その際の、より実効を生み出す為には､関係者と対面型コミュニケーションを生かす事である。それは、講師と担当者の本意で創り上げる対面型研修だからこそ、受講者に寄り添った研修現場が構築され､受講者が加わっての「楽しく創り上げる研修」となるのである。

　今回記した対面型コミュニケーションの実践は、研修だけではない。昨今、直訴される営業活動での課題解決や、協力関係の構築にも通ずる事は察しの通りである。 そこには､双方による最適な状況構築に向けて、学びの訊く事と､伝える事と､異見を聴く事と、学びによる新たな条件を加えての練り直しのプロセスが、螺旋状に回って折り合いをつけることである。この事を確認して結びといたします。

(令和3年11月　研修・講演髭講師　ビジネス教育の（株）ＨＯＰＥ　澤田　良雄筆)