行は行動･実践であり、頭は知識･知恵、心は心意気である。平時なら頭→心→行であるが、今年は入社時から在宅勤務で２ヶ月間テレワーク、オンライン研修で学習を重ね、既に就活での会社訪問で企業理解も一応はしているので、新人としてどう活躍するかの知識（頭）は修得されている。それに、早く､配属先現場で活躍ぶりを発揮したいとの心意気も高い。勿論、この心意気も在宅勤務が続く中、他社の内定取り消し、入社式取りやめ、業績悪化に伴う企業環境厳しさの報道情報から不安感の抱き、また､緊張感の乏しい在宅生活での学習は、自律心が弱り、心意気が萎えを生じたこともある。この事を研修担当者との事前打ち合わせで十分に摺り合わせ研修に携わる。

□させて診て→実践の是々非々を自己診断

　ならば今年はどう実効高まる研修を進めるか。それが、行→頭←心の指導手順とし、既学習から ｢そんな事はわかっている」「私なりに出来ます」との自負心があることを前提にまず「やって見せなさい」からの指導・支援である。例えば、大手製油Ｃ社の研修会場に入る。各自の準備状況はどうか、続いて担当部署幹部からの開講挨拶時の受講態度を後席から診る。背筋がきっちりしている・いない、うなずきをする・しない、メモをする・しないこれだけでも受講者各位に差が観える。紹介を受けて､「おはようございます」と心を込めての講師挨拶をする。どう返すか、受講者からの声、語調、目線、お辞儀状態を瞬時に感じ取る。すかさず、「心を込めて､最高の挨拶をした人、手を上げて下さい」と自己診断での評価を問う。全員上がれば良い。現実は大方０であるがさすがＣ社、さっと一人が手を挙げた。手を上げた受講者に名を聞き「Ｓさんに拍手を・・」と促す。拍手、その状態を診る。「心を込めて最高の拍手した人手を上げて・・」と再び問いかける。３人上がる。ここまでのところで感想を聴くと「何気なくやっていました」に類する答えが多い。挨拶の大切さ､どのようにする、話の聞き方はどうするなどみな、既に学んでいる頭（知識）であり、心である。心意気についても入社後の活躍ぶりでの抱負としてＣ社の受講者に問えば、「何事も最善を尽くす､一生懸命する、熱い人だとみて貰う・・事に向かう心持ちの腹ずもりを記し､自己紹介でも述べている。ましてやその行い方は､やれば出来る言動なのだ。

□最高実践無しは、潜在的魅力を粗末にすると説く

　これらの頭心は既に確保している潜在能力である。ならば行（最高実践は）なぜ出来無かったのか。ここにスポット当て、「企業はやった事実がその人の評価なり」やらずして「わかっている､出来る､やろうと思った､自分なりにやった」は自分を粗末にしていることに他ならない。新人としての周囲からの期待に応えた「打てば響く心と言動の最高実践」の確認講義を施す。さらに行（実践）は言われてやるのは価値がない。それは､スイッチを入れられて動くロボットなり。自分を生かすとは、期待され入社した「人材」即ち、自身の持ちうる魅力ある潜在能力（活躍材料）を必要な人に、必要なときに「最高に生かし実践する判断と決断」は人だからこそ持ちうるパワーであると深める。だからこそ「あのときにやっておけば良かった」との悔いは絶対に残さないよう確認する。

□つもりレベルの学びマインドに注意

　改めて、開講の挨拶時のうなずき、メモの実践者にスポット当て褒める。本人の照れた笑顔が新人の初々しさとして美しい。ここまででも、入社後の学んだ責任と、学生から企業人への脱皮よる成長ぶりの自己診断による未熟点の確認が出来る。だからこそ、ならばどうする、の本気で「変える」ヒントに気づき､会場での試しの実践へと研修環境が整っていく。多分、先に講義による知識の施しをすれば､多分「わかっているよ」、こちらがやって見せれば「そんな事は出来るよ」と「つもりレベルの学びマインド」に陥り、研修実効は高くはあるまい。

□出来るかの不安も「して診たら」出来る自分に気づく

　だからこそ、担当部門と策定したビジネス話法、ビジネスマナー、指示の受け方、指導の受け方、忠告の受け方・・・と研修を進める時には､必ず「させて診る」からの指導の運びに徹する。例えば、ビジネス話法でもいきなり数人に「お題拝借の１分間スピーチ」を依頼する。指示された受講者は戸惑いながらもスピーチをする。即、一人一人のスピーチを診断し､褒め、アドバイスを施し、なぜよいのか､なぜ改善するのかを基本条件を確認したうえで、まとめ講義として「言って聞かせる」指導支援へと結び付けていく。そこで、共通の学びができた事から、グループ編成での各自の試しの体感演習へと導く。見事に基本を踏まえた､筋道を立て､わかりやすく､感じのよい単純明快なスピーチが出来ていることが嬉しい。実は、いきなりの「お題拝借スピーチをせよ」の指示には、体験無き事ゆえ、出来るか、旨くいかなかったらの受講者の不安を目論見、でも、出来る可能性を信じ、「できた」の実体験そのことが、｢やれば出来る可能性を持っている自分」を自覚出来るとの思惑がある。それは、今年こその多様なる学習機会による知識の豊かさは、実践により知行合一､有言実行、言行一致として、さすが今年の新人は違うとの評価を得る楽しみを秘めている事に他ならない。

□確認と本気で変わる覚悟を創る

　「させて診て」の方法は､教材活用による個別・ペアー演習、問いかけによる自主回答発表、グループによる意見交換、集約、発表など最適な方法を施し、そこから掴んだ言動実践を是々非々を浮き彫りにし、既に学んだ確認と、さらなる深めの理解、納得を施すことにある。それは､本気で心を変え､行動を変え、ものにしていく覚悟を創る働きかけに他ならない。だからこそ、指導する上では時には大声をだし受講者に迫るシーンもある。全身全霊で指導･支援する自然な取り組み姿勢がそこにある。

□育みの段階、現場に落とし込んだ丁寧な指導

　教育とは、「教」は教え、引き出すことであり、「育」とは実際に出来るよう、認めと修正のアドバイスにより育むことである。配属先での現在は育みの段階。今年度は適宜「させて診て」の指導の施しから、本人と共に指導必要点を浮き彫りにし、現場、現実に落とし込んだ「なぜ」「どうして」と丁寧に根拠、理由付けする「言って聞かせる」指導を願いたい。さらに試しの実践で診て、是々非々の褒め､注意は必ず成す事がよい。そこで気になる点は、

□憧れの人の指導者にパワハラは無い

　褒めるのはいいが叱るのは・・パワハラが・・こんな言葉を耳にする事である。極言すれば、この事は恥ずかしい。それは、新人の憧れの人としての専門力×信頼される人間力が乏しいとの自己評価であるからだ。工具トップメーカーＮ社新人の１０年後の自己像には、「頼られる人、社内一番の営業マンになる、〇〇のことは◎◎に聴けとの存在感ある人、後輩が出来たら慕われ､育ての出来る人・・」と記している。目指す自己像が先輩であり、上長であると願うことに異論はあるまい。それは､実績を示し､人間力豊かな存在感のある憧れの人なのだ。憧れの人からから強く叱られた（本人の言い分にすぎない）からといってパワハラだということはないであろう。とかく、そのときの言葉、語調を問題視する向きがあるが、新人との信頼関係如何が問われるのである。逆に、ネットで学んだ理想的上司像に当てはめとやかく言う新人がいたら、まさに未熟な新人である。それは、組織は関わる人は選べないとわかっている事であるからだ。だからこそ、小生の指導では「きつく叱ってくれる指導者に感謝。それは本気で育てる愛情豊かな、熱き心の指導者である。誰しも叱りたくないのが素直な心情だからです」と説く。

□今年入社は幸いである

　ご担当者から終了後､「スタート時点と終了時には受講者の顔つき、動きに変化が観えます。」との所感を聴けることは嬉しい。今年は新型コロナ感染防止対策による思いもよらずの企業人としてのスタート､アンラッキーと見る節もあるが、むしろ今年入社出来たことは幸いである。
　それは、やがて、入社時の想いが多少なりとも実現できた時、「なぜ、そのことが出来たのか」の問いに､「入社時の多様な学ぶ機会は､見えない根を育み、かつてない自己体験と、厳しい企業環境で芽をだし、成長した逞しさを身につけたおかげです」と、この入社時を語れる唯一の新人だからである。「あの年に入社したんですか。さすがですね。」それは、企業の歴史の一節に記される巡り合わせなのだ。こんな運の良い幸せ者が今年の新人である。と、研修の結びに小生が送ったエールである。  例年と違う。だからこそ新たな工夫による足跡が残せる楽しみの機会でもある。
　
　「今の会社で働き続けたい」との数字が高くなったとの新人の意識調査結果が紹介されている。ならば、育みの手腕如何がまさに問われる。 指導者も巡り合わせた幸福者であるのだが・・。

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(令和2年7月　研修・講演髭講師　ビジネス教育の（株）ＨＯＰＥ　澤田　良雄筆)