<一筆の交心が生きる人脈作りの実践>
◆手書き葉書の100日実践
「100日続けて妻に感謝の葉書を書きました。当初はどんなことを書こうか迷いました。投函して、受取人が自分ということもありました。自宅の郵便受けボックスから取り出す自分がいたからです。それだけなんか恥ずかしさがあったんです。でも、書き続けていく内に、妻のおかげで働きもでき、学びもでき、子供も成長していること気づきました。素直にその事実を受け止め、素直に言葉に著すことが苦にならなくなり、書く、投函する自分がなんか浮き浮きしてきました。妻の接し方の変化が起こってきたのも自然の成り行きです。今日はこの会場で葉書を読み、直接渡します。」「○○さん(奥様の名)支えてくれてありがとう。これからもよろしくお願いいたします。」花束を贈り思わずハグする。会場から拍手・拍手。なぜか感動の瞬間だ。
両親に送り続けた人もいる。子供と交換日記的にやり取りした人もいる。一様に葉書に著し、送ることの実践により、これまでのしていただく事は当たり前の事とし、感謝の返心(心を返す)の希薄さに気づいた懺悔の体験発表である。
会場は小生も出講した(青年経営者・幹部)後継者塾の修了式である。約一年間の学びであり、その成長は逞しさに溢れ、自己表現としての振る舞いはオーラさえ感じる。実践を通して育んだ見識と言動力、そして身近な人の施しに「おかげさま」と気づいた謝念の芽生えた人間力だ。それは書き記す(しるす実践の秘めた効用を示しでもある。
◆持ち味の生きた一筆の送心
実は小生の継続実践に葉書道がある。40年になる。お会いした喜び、交わしあった考え方、人物イメージ、機会を創ってくれた謝念、研修運営へのご協力など感謝を葉書に一筆手書きし、お送りする。受講者には良いところは褒め、更なる生かし方に関しては率直に助言もする。下手な文字であるが手書きで、その人の心情に近いキャッチポイントだからこそ、受け止めも印象深い。次回お会いしたとき寄ってきて、御礼をいただく事もある。時には、病魔と戦う知友に、出講先から絵葉書を送る。頑張れでなく、「今度は一緒したい」旨の楽しみを望むメッセージである。
同様な意図では美容室を営むK社長は、得意の短歌に心をのせ50通近くの短歌便りを送られたという。また、手書きでも、筆で書く人、絵手紙、ちょっと挿絵を描く人もいる。写真を組み入れる人もいる。その人の持ち味を生かした送心である。
一筆記す。この実践は、葉書に限らず、例え資料を送る、案内チラシを送る際の各自に一言書き添える事に繋がる。単にもの・知識・情報を送るのでなく日頃の感謝とお役に立てるご縁に対する喜びの送心である。身近な事例も多い。いくつか紹介しよう。
●K県黒酢醸造社F社の納品書には必ず手書きでの短文が添えられる。時候の状況伺い、お取引の経過に伴う謝辞等・・時には絵が描かれる事もある。読むのが楽しみ。
●都内旅行社A社では、訪れると名刺大のメッセージカードを立ててある。小生の名と暑い中、雨の中のその時の天候を越えての訪問への御礼、前回の利用御礼といかがでしたか、のフオローの心情迄を短文で記してある。
●T県温泉地Mホテルでは、お出で頂く少人数のお客様のお名前の歓迎板を用意して有る。ご一行様大歓迎はどこでも有るが、少人数様への配慮は稀である。
●F県イタリアンレストランAでは会食メニューが手づくりで、●〇様いらっしゃいませと名を記してある。
●都内工具トップメーカーN社研修担当者は新人の研修レポートを丁寧に添削し、内容に関する所見を毎日記す。
等もある。ほんの一筆だが思わず受けた人の頬が緩むのは現実である。大事にしてくれている。おもてなしの心に通ずる施しであり喜びの提供である。相手に対して素直におかげさまの感謝のお届けである。
◆お互い様の交心が仕事力を高める人脈へ
おかげさまでの感謝の念は、一筆をきっかけに以後「何かお役に立つ事はないかと」お役に立てる喜びを自然に施したくなる。
拙文の送信や、情報のご提供の随時実践も一例だ。勿論 パソコンでの送信もあるが、一斉配信する事をせず、各自に準じたメッセージをお書きする。一筆の送心、それは点対応でなく線対応である。従って相手の活躍、関わりの累積などインプットしておく事もいとわない。気になる人だからそれが大変だと思わない。
当方からのお願いも時にはある。先般も小生の抱える課題にご意見、情報を頂くことを依頼した。早速返信いただけた事がありがたい。まさに心の通うお互い様の人脈は、仕事の質を高め、スピード化ができる。「頑張っています」といっても自能力では限界がある。独りよがりのがんばりの美化ではなく素直に力を借りられるその対人関係は現代にはどうしても必要である。
それは相互に支援し合う人生のパートナーとしての交流である。良き人に出会うと良い事がある。人との出会いは、縁はその後の人生に影響を与える事も事実。「人は縁の中で生きている。人は縁の中でしか生きられない」という言葉もある」。その縁で生きていく事に一編の詩がある。紹介してみよう。
生きているということは、誰かに借りをつくること
生きているということは、その借りを返していくこと
誰かに借りたら、誰かに返そう
誰かにそうしてもらったように、誰かにそうしてあげよう
誰かと手を繋ぐことは、その温もりを忘れないでいること
巡り会い、愛し合い、やがて別れのその時、
悔いのないように今日も明日を生きよう
人は一人では生きていけないから
誰でも一人では歩いて行けないから
との内容である。読者諸氏も知り得て、自己を省みる糧としている人もあろう。
一筆の送心(送信)そして返心(返信)。単なる一筆の交心(交信)は「喜びごっこ」かもしれない。がこのほんの小さな交心は、縁をいただき心豊かに生きていく種で有り、花であり、実りである。それは公私問わず、直接的でもあり間接的でも喜びである。そしていざというときの仕事力を高める人脈でもある。
塾生同期の学び合った絆は、各々の活躍での異質(異業種、異職種、異見・・)の強みを交わし合い、支援の施し交換へと生きていく。塾生各自と握手を交わし、「すばらしかった」と発表への賛辞と「今後も塾生互いに助けあってね。」と声がけし会場を後にした。感動の余韻が残心として今もある。
企業は人なり。社員の人脈の豊かさは、新たな独自性を生み出し、その実現に向けての異見の融合による発想の多面性は、質とスピードを高める。自分と異なった特性を有する人との交流・融合化が企業の新たな強みづくりとして生きる現在だ。現実には、部分最適でなく全体最適・個社でなく関係企業のコラボ・親と子と孫の総合力・産学協同・農政産学協同・アイデア、設計、資金、製造、販売と各分野の高度人材の集積による新製品の創出、他国との提携・・今や経営戦略も変化している。
だからこそ異との縁を生かした情報のネットワーク・人脈インデックスの充実化は不可欠である。広め、深め、生かしあう人脈形成について再確認し、まず、身近に出来る実践策を提言とした。
対人関係をつくり、生かすコミュニュケーションの実践法について指導いたします。
(平成29年9月 研修・講演の鬚講師 澤 田 良 雄記)
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