「あんな人になりたい」「将来こんな先輩になりたい」本気で憧れてしまう事の出来る能力を、敢えて憧れ力と称してみる。入社間もない新人は配属先でその様な先輩に出会えただろうか。また異動先新職場で「こんな人がいたのか。良し、心新たに自分もそうなる」と弾む気持ちを持っただろうか。逆視点からすれば、そういう的となるあなただろうか。連休時ふと新人、先輩・上司に問いかけてみた。それはうるうるしてみたテレビ番組を通じてである。
5/5長嶋茂雄氏、松井秀喜氏が揃って国民栄誉賞を受賞した。同時授賞の大きな理由は師弟の「絆」である。松井氏は6歳の時、将来の夢は野球選手、そして描いた絵は背番号3のユニホーム姿だ。憧れの背番号3だ。長嶋氏は、ドラフト会議前に松井選手(当時星陵高校生)を巨人の星として育てたいと語っていたという。これは指導者としての憧れだ。互いに憧れ方は違っても憧れ力は引き付け合っていたともいえる。長嶋氏はくじを引き当てた瞬間「1000日計画」をひらめき決めたという。憧れ力は持っただけでは意味がない。その実像づくりにどう具体的に実践を累積していくかである。その指導は「ピュッと短く高い音が鳴る」(軽く振っても、一瞬で短く、高い音、いわば空気を切る音と解説)素振り鍛錬が軸であったことは周知の通りである。松井氏が素振りを軽視していたわけではない。それは畳がすり切れるほど高校時代毎日素振りを欠かさなかった事実でもわかる。しかし、スイングの音を意識したことはなかったという。憧れる人のレベルは、それだけ新たなことを気づかせる凄さがあるものだ。だから、尊敬の念と本気で取り組む憧れ力が高まってくるのであろう。
松井氏は 現役引退時の会見で20年間の選手生活で一番思い出に残っていることは「やはり長嶋監督と2人で素振りをしたことでしょうか。」と述べている。まさに互いに憧れあった師弟の鍛錬の絆は素振りという、地味だが基本中の基本を本気で高めあった事である。
記念品の黄金のバットはその事の象徴とも言える。中身は銀、いぶし銀のような努力を称え、栄光を絶讃してその華やかさを金メッキで表現したとのことだからだ。憧れの実態形成はいかに努力を重ね、固めたかである。松井氏の父親は「努力できることが才能」との色紙を送った。高校時代の監督は松井氏を表して「努力の天才」と表した。金バットの意味合いそのごとくである。
この時期5月病云々と良く言われる。その危惧はどうして産まれるのであろうか。多分「当社の立派な社員になります」「君には期待しているよ」互いに交わす言葉に本気で憧れの指導関係が出来ているか如何であろう。
憧れが浮ついたかっこよさだけであったり、最近の若いやつはとか、、今年の新人の傾向は・・等との世評に自己の指導力なさの言い訳を求めていたのでは、「こんなはずでなかった」等という他責によるミスマッチ論が生まれるのであろう。
松井氏は長嶋監督は厳しい人、誉められたことは一度もなかったと語った事がある。しかし、長嶋監督の最終試合前の2人での素振りでは、5本、10本振るうちに涙を流し始めたという。泣いたことがない松井氏の、初めて流した大粒の涙。当時この様を目にした取材記者は感動したと記してある。何故長嶋氏は叱りの育てをしたのか、その答えは、松井氏の引退会見の後、長嶋氏のコメントに「これまで飛躍を妨げないよう、敢えて称讃することを控えてきたつもりだが、ユニホームを脱いだ今は「現代で最高のホームランバッターだった」という言葉を贈りたい。」と述べた事にあった。20年経って長嶋氏に初めて誉められた松井氏は、ニューヨークの自宅で胸がいっぱいになり落涙したという。愛情ある厳しき指導の結実は感謝、感動、感激を双方が享受できるのである。
師への敬意の絆はここにも魅た。それは式典での松井氏は常に長嶋氏の後方3歩下がって歩行、授賞時にはそっと手をさしのべる気配りを魅せていた。それは長嶋監督の育成の礎は「技術も大事だが、それ以上にマインド、心の鍛錬が必要」との理念にあった。松井氏は「プロ野球選手としての心構え、練習への取り組み、試合への取り組み方など全てを学んだ」と感謝し、父親は「我が子というより1人の男として誇りである」高校時代の監督は「他人を尊敬できる人」と称している。まさに憧れ力がその道のプロとして、いや、尊敬される人間としての実像化された事実である。そこには三者三様の師弟関係で創り上げた凄さがある。
部下育成も「玉、磨かざれば器を成さず」前回紹介した言葉であるが、部下、上司が堅い意志を秘めたダイアモンドで磨き合うからこそ、憧れの社員像が実像化していくのである。 5月時は、基本力を徹底的に身体に覚え込ませる大事なとき、是々非々の厳しさを共有できる、頼り、頼られる真の関係を造り、生かし合いたいものだ。現状はいかが・・・。
新たな場での指導は、将来語られる宝である。それは「今私があるのは、あのときの○○さんの指導のお陰です」ということだ。
長嶋氏、松井氏同時の国民栄誉賞受賞の感動的事実を機会に、日頃の指導云々について一考を要してみてはいかがであろうか。
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